難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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疾患各論1

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれる疾患の解説

12トランスポーター異常症

❶先天性クロール下痢症(CCD)

 回腸末端および結腸の腸管上皮におけるCl/HCO3-イオンの輸送障害により,Clを腸管から大量に喪失するため,分泌性下痢が惹起され,低クロール血症および代謝性アルカローシスをきたす.それにより腸管内HCO3が欠乏し,便は酸性となり,二次的にNa/H交換輸送によるNa吸収が減少するため,低ナトリウム血症をきたす.また,腎臓のNa/K交換輸送においてはNa吸収が優先され,脱水による二次性アルドステロン症も伴うので,低カリウム血症が進行する.病因は7q22-q31上のCl/HCO3イオン輸送体蛋白を発現するSLC26A3遺伝子変異である.下痢は胎児期より始まるため,母体に羊水過多を認める.

❷先天性ナトリウム下痢症

 小腸および結腸の腸管上皮におけるNa/Hイオンの輸送障害により,便中にNaを大量に喪失するため,分泌性下痢が惹起される.SPINT2遺伝子・GUCY2C遺伝子・SLC9A3遺伝子の変異や肝と小腸上皮のミトコンドリア呼吸鎖酵素のcomplex 1の欠損に伴うNa/Hイオンの輸送障害が報告されている.先天疾患であり,CCDと同様に羊水過多,生直後からの重度の下痢を認める一方で,便中NaはClよりも高値(100 mEq/L以上)となり,アシドーシスを示すことが異なる.

❸先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症(GGM)

 小腸上皮からグルコースとガラクトース,およびそれらで構成される分子を吸収することができないために,出生後の哺乳開始とともに激しい下痢がはじまり,数日ないし数週のうちに重篤な脱水,低血糖やアシドーシスに陥る疾患である.その病因は,SLC5A1遺伝子の変異によりおもに小腸上皮細胞の微絨毛でNaとグルコースを一緒に取り込むトランスポーターであるSGLT1(sodium/glucose cotransporter)の機能が失われることにある.
 なお,本疾患は小児慢性特定疾病に指定されており,疾患の詳細は小児慢性特定疾病情報センターのサイトで検索可能である(https://www.shouman.jp/disease/details/12_01_003/).

❹果糖吸収不全症

 フルクトースの特異的トランスポーター機能低下のため,フルクトースを含む食品の摂取により下痢や腹部膨満をきたす先天疾患である.フルクトースは6炭素からなる単糖類で,浸透圧差を利用した膜輸送体蛋白であるGLUT5により輸送されるが,本症ではフルクトースの過量摂取により腸管内の膜輸送が容易に障害され,腹部膨満や下痢,腹痛など様々な腹部症状を呈する.また,グルコースやガラクトースを輸送するトランスポーターであるGLUT2もフルクトースの吸収に一部かかわっている.水素呼気試験(HBT)が診断に有用である.
 なお,本疾患は小児慢性特定疾病および指定難病には登録されていない.