難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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疾患各論1

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれる疾患の解説

11微絨毛封入体病

1)概念・定義

 腸管上皮細胞の微絨毛が腸管管腔に正常に局在できないために大量の下痢をきたし,水,電解質,重炭酸の喪失と栄養素の吸収障害をきたす常染色体劣性遺伝性疾患.電子顕微鏡的に微絨毛の密度が疎で丈が低いことから先天性微絨毛萎縮症とも呼称される.

2)疫学

 英国では20万出生に1人の発症率と報告されている.わが国での正確な疫学は不詳であるが,欧米の報告に比してかなり発症率は低いと考えられている.

3)病因

 腸管上皮細胞の成熟過程で起こるべき細胞内での微細構造の移送にかかわる機能異常により,微絨毛が腸管腔側に正常に局在できないことが病因であり,myosin-VbをコードするMYO5B遺伝子がその原因遺伝子であることが2008年にMüllerらによって報告されている1,2)

4)診断

 特徴的な臨床症状(生後数日以内からの著しい水様性下痢と電解質異常)や便電解質所見が重要であるが,診断の確定には小腸粘膜生検が必要である.透過電子顕微鏡での観察で管腔側の微絨毛が疎で丈が短く,細胞質内に微絨毛構造が封入体となってとどまっている像が観察される.光学顕微鏡では,PAS陽性やアルカリホスファターゼ染色,CD10免疫染色によって細胞質内に微絨毛封入体が観察される3).MYO5B遺伝子解析が可能である.

5)治療と予後

 例外的に加齢とともに吸収能力が回復したとの報告もあるが,通常は小腸機能不全の状態で経静脈栄養からの離脱は不可能で,長期の合併症から小腸移植の適応となる.

文献

1)Müller T, Hess MW, Schiefermeier N, et al.: MYO5B mutations cause microvillus inclusion disease and disrupt epithelial cell polarity. Nat Genet. 2008; 40: 1163-1165.

2)Thoeni CE, Vogel GF, Tancevski I, et al.: Microvillus inclusion disease: loss of Myosin vb disrupts intracellular traffic and cell polarity. Traffic 2014; 15: 22-42.

3)Koepsell SA, Talmon G.: Light microscopic diagnosis of microvillus inclusion disease on colorectal specimens using CD10. Am J Surg Pathol 2010; 34: 970-972.