難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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難治性下痢症診断の手引きについて

発行に寄せて

 下痢は症候であって疾患自体ではないため,様々な疾患や病態でみられる下痢を系統的に理解して診断したうえで治療や管理に役立てることは大切なプロセスであります.特に新生児・乳児から小児期においては,下痢が遷延することで子どもの日常生活が冒され,時に発育に悪影響をもたらします.しかし,これまで症候としての下痢の視点からこれを分類して解説した専門書はありませんでした.
 本書は,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業における研究活動に基づいて,小児の慢性下痢の診断の指針となるべく,日本小児栄養消化器肝臓学会と日本小児外科学会のメンバーによって編纂されたものであり,日本小児栄養消化器肝臓学会ガイドライン委員会の査読を経て出版されました.
 日常の小児診療で遭遇する子どもの下痢が長引くとき,あるいは便の性状に特徴があるときに,どのように考えて診断を進め,治療に結びつけるかに指針を示す手引きとして,本書が小児診療に携わる皆様の役に立つものと確信しております.

 2021年9月

一般社団法人日本小児栄養消化器肝臓学会 理事長
順天堂大学小児科 教授
清水俊明

発行に寄せて

 小児の難治性消化管疾患で,小児外科医が手術によって治療することができない病気がいくつかあり,そのなかでもまず注目したのがヒルシュスプルング病類縁疾患です.この難治性疾患等政策研究事業研究班は,治療に難渋し,小児期のみならず移行期,成人期に至っても治療介入が必要な疾患として,まずヒルシュスプルング病類縁疾患や長域型のヒルシュスプルング病からスタートし,指定難病にもっていったほうが患児のためによいと考えられる疾患および疾患群をピックアップし,疾患グループとして加えてきました.そのなかで小腸移植の適応疾患として注目していたのが小児内科的な疾患群である「先天性吸収不全症」です.位田先生,虫明先生にグループリーダーをお願いし,日本小児栄養消化器肝臓学会の協力を得て調査研究を進めた結果,「難治性下痢症」という疾患群にたどり着きました.本書では,研究班の成果として,全国調査の過程を経て,診断を進めるにあたって必要なアルゴリズムをつくることができましたので紹介いたします.今後「特発性難治性下痢症」として小児慢性特定疾患や指定難病につながっていくことを願っています.

 2021年9月

学校法人福岡学園福岡医療短期大学 学長
一般社団法人日本小児期外科系関連学会協議会 会長
九州大学 名誉教授
田口智章

序文

 平成23(2011)年から当時九州大学小児外科の田口智章先生を研究代表者として始まった厚生労働省班会議「小児期からの希少難治性消化管疾患の移行期を包含するガイドラインの確立に関する研究」において,平成26(2014)年に外科的に治療できない小児の消化器疾患として「先天性吸収不全症」を取り上げていただき,診療ガイドライン作成に向けたグループ研究が立ち上げられたことが,本書編纂の緒である.グループでは,まず小児期に消化吸収不全を症候とする19 疾患の症例数調査を行い,平成27(2015)年にわが国において有病患者数の多かった乳児難治性下痢症を含む7 疾患について二次調査を行った.しかし,単一の疾患とは異なり,「先天性吸収不全症」は様々な病態と疾患を包含した概念であるために,その診療ガイドラインの作成には至らなかった.
 平成29(2017)年,この活動は厚生労働省班会議「小児期から移行期・成人期を包括する希少難治性慢性消化器疾患の医療政策に関する研究」における「難治性下痢症グループ」に引き継がれた.ここでは,小児期に発症して成人期の難病に移行する政策的医療補助の対象となる疾病の見直しがテーマとなった.難治性下痢症グループでは,小児期に発症して遷延する下痢を診るときに考えられる様々な病態と疾病を系統的に理解し,鑑別するための指針となるべきアルゴリズムとその解説を作成した.本書は,これに基づいて実臨床で遭遇する様々な下痢の病態の理解と診断を進める手助けとなることを願って編纂したものである.
 アルゴリズムの外に位置する「特発性難治性下痢症」とは,診断アルゴリズムで成因診断に行き当たらない小児の慢性下痢症に与えられる用語である.今後,このなかから次世代の新しい診断技術によって新規な疾患原因が発見されることが期待される.また,「特発性難治性下痢症」は特定の病因によらない除外診断であるために,政策医療的には単一疾患として認められていない.本書が将来,この疾患が政策的医療補助の対象となるための根拠を与えるものとなれば幸いである.

 2021年9月

近畿大学奈良病院小児科 教授
虫明聡太郎

大阪母子医療センター臨床検査科 主任部長
位田 忍