難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

お問い合わせ
※医療従事者のみ

疾患各論2

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれていない疾患の解説

先天性小腸上皮異形成症(tufting enteropathy)

1)疾患概念

 先天性小腸上皮異形成症(tufting enteropa-enteropathy)は生後数日以内の大量水様便で発症し,多くの症例では不可逆的な腸管不全のため経静脈栄養依存となる難治性下痢症の一疾患である.

2)疫学

 常染色体劣性遺伝形式をとり,欧州では1/50,000~100,000出生の発生頻度と推定されている.中東地域での報告が多く,これまで国内での報告例はない.

3)診断

 小腸生検組織の光顕像で絨毛萎縮に加えて絨毛先端の上皮が毛玉様小房(tufts)を形成することが特徴的所見とされる.原因遺伝子としてepithelial cell adhesion moleculeをコードするEpCAM遺伝子,およびKunitz-type 2 serine-protease inhibitorをコードするSPINT2遺伝子が報告された.

4)症状

 これらの遺伝子変異により下痢をきたす機序の詳細は不明であるが,両遺伝子はともに腸管粘膜上皮細胞間の細胞接着の維持に関与しており,変異により粘膜上皮のバリア機能が失われ下痢を発症すると考えられている.

5)治療・予後

 本疾患の患者の多くは絶食や持続経腸栄養には反応せず,永続的な静脈栄養を必要とし,海外では小腸移植も実施されている.

参考文献

・Goulet O, Salomon J, Ruemmele F, et al.: Intestinal epi- epithelial dysplasia (tufting enteropathy). Orphanet J Rare Dis 2007; 2: 20.

・Wu CJ, Feng X, Lu M, et al.: Matriptase-mediated cleavage of EpCAM destrabilizes claudins and dysregu6lates intestinal epithelial homeostasis. J Clin Invest 2017; 127: 623-634.

・Sivagnanam M, Mueller JL, Lee H, et al.: Identification of EpCAM as the gene for congenital tufting enteropathy. Gastroenterology 2008; 135: 429-437.

・Salomon J, Goulet O, Canioni D, et al.: Genetic charac- characterization of congenital tufting enteropathy: epcam associated phenotype and involvement of SPINT2 in the syndromic form. Hum Genet 2014; 133: 299-310.

・虻川大樹.乳児難治性下痢症.小児内科 2009;12:1751-1754.