Ⅲ難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれていない疾患の解説
3無βリポ蛋白血症
1)概念・定義
無βリポ蛋白血症はアポB含有リポ蛋白の欠如により著しい低コレステロール血症及び低トリグリセリド血症をきたす,稀な常染色体劣性遺伝疾患である.アポB含有リポ蛋白であるカイロミクロン,VLDL,LDLが欠如しており,脂肪吸収障害とそれによる脂溶性ビタミン欠乏症が授乳開始時より持続するため,適切な治療を長期に継続しないと不可逆的な眼症状,神経障害をきたしうる.1993年に本疾患においてMTPの遺伝子異常が同定され,MTP欠損症ともよばれる.
2)病因
MTP遺伝子異常が病態形成に大きく関与する.MTPは肝細胞および小腸上皮細胞のミクロソーム分画に存在し,細胞内でのトリグリセリドやコレステロールエステルの転送を担う蛋白として同定された.肝・小腸で合成されたアポB蛋白にトリグリセリドが付加されVLDLおよびカイロミクロン粒子が形成される過程にMTPが不可欠である.肝でのVLDL産生により末梢組織に必要なコレステロールの輸送がなされ,小腸でのカイロミクロン形成により脂肪が吸収される.この疾患ではMTPの欠損によりトリグリセリドと結合しないアポBは速やかに分解されて血中に分泌されない.
3)症状
脂肪吸収障害と,それに伴う脂溶性ビタミンの吸収障害(特にビタミンE欠乏)を認める.患者は通常,出生時には明らかな異常はないが,授乳開始とともに脂肪吸収の障害により,脂肪便,慢性下痢,嘔吐と発育障害を呈する.また,脂溶性ビタミンの吸収障害により,思春期までに網膜色素変性などの眼症状,多彩な神経症状(脊髄小脳変性による運動失調や痙性麻痺,末梢神経障害による知覚低下や腱反射消失など)を呈する.ほかにビタミンK欠乏による出血傾向や心筋症による不整脈死の報告もある.
本疾患は“無β-リポタンパク血症”として小児慢性特定疾病(先天性代謝異常132)に登録され,“無βリポタンパク血症”として指定難病に登録されている(指定難病264).