難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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難治性下痢症診断アルゴリズムの解説

血便・粘血便・便潜血反応陽性の下痢

1)病態

 感染性腸炎と肛門病変が除外された血便(粘血便含む)では,腸管粘膜の損傷を伴う病変が大腸の一部,もしくは全大腸に存在するのが一般的である.原因としては,免疫異常に伴う炎症,潰瘍形成,血管異常,虚血,ポリープを含む腫瘍性病変が考えられる.ポリープが原因となっている場合,ポリープ頂部の粘膜は脆弱かつ炎症のために易出血性となっている.また,横行結腸より口側の大腸,小腸からの出血では,顕血便とはならないことも多く,便潜血陽性患者として,出血の原因を考える必要がある.

2)検査法

 下記のような検査を進めることになるが,ほとんどの症例で,確定診断には内視鏡検査と粘膜病理組織検査が不可欠である.

①便検査:便細胞診(ギムザ染色による便中好酸球の検出(シャルコ・ライデン結晶),便中ヘモグロビン(血液混入の確認),便中カルプロテクチン(炎症性腸疾患の診断補助),感染性腸炎の再確認

②血液検査:

・一般検査:血算,生化学(CRP,総蛋白,アルブミンなど),赤血球沈降速度,白血球分類

・アレルギー用採血:IgE,IgE-RAST,アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST)検査など

・免疫不全関連検査:免疫グロブリン,補体,リンパ球サブセット,PAH/ConA,FCM解析など

③内視鏡検査:下部消化管内視鏡検査,上部消化管内視鏡検査,カプセル内視鏡検査,小腸バルーン内視鏡検査

④病理組織検査

⑤画像検査:腹部超音波検査,MR-enterography

⑥遺伝子検査:サンガー法(特定の疾患除外),全エクソーム解析

3)鑑別疾患

①炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病など)

②免疫異常に関連した腸炎(IPEX症候群,慢性肉芽腫症関連腸炎など)

③食物蛋白誘発性腸症,好酸球性腸症

④セリアック病など

 特に,食物蛋白誘発性腸症,好酸球性腸症,セリアック病などは,食物抗原を原因として腸管炎症を生じていることから,食物除去により著明な改善をみることがある.一方で,炎症性腸疾患や免疫異常に関連した腸炎であっても,食餌制限による一定の改善を認めるため,注意深い鑑別が必要である.なお,セリアック病については日本人の症例はほぼ皆無であるが,近年,外国人を診察する機会も増えており,鑑別疾患として無視できない.診断には抗グリアジン抗体,組織トランスアミナーゼ抗体の検出が有用であるが,わが国での検査は困難である.