難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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難治性下痢症診断アルゴリズムの解説

bacterial overgrowthをきたす背景疾患

1)病態

 腸閉塞,blind loopなどの腸管バイパス手術,術後の癒着などにより腸管通過障害が発生すると,小腸内において細菌が異常増殖する(small intestinal bacterial overgrowth: SIBO).増殖した腸内細菌は,本来は生体が必要とする栄養素を分解することでガスを産生する.その際に産生される毒素は腸管上皮細胞を損傷することで下痢が助長される.また,先天性の解剖学的異常でも小腸内における細菌の異常増殖(SIBO)をきたして細菌性下痢を呈する.SIBOの背景となる病態としては,慢性特発性偽性腸閉塞症(chronic idio-idiopathic intestinal pseudo-obstruction syndrome:CIIP)や腸管神経節細胞減少症(hypoganglionosis)などの腸管蠕動不全を伴うHirschsprung病類縁疾患や,短腸症候群などがあげられる.これらの疾患では,増殖した細菌が腸管粘膜から血中に移行して菌血症やカテーテル感染症の原因となる(bacterial translocation).
 通常腸液1 mLあたりの腸内細菌数は大腸では109個と多いが小腸では104個と少ない.一方,SIBOでは何らかの機序により腸管鬱滞が発生してbacterial overgrowthが生じる.このためSIBOでは小腸内(正確には空腸)での腸内細菌数が105個以上と定義されている.なおその細菌の種類もEscherichia coli,Streptococcus,Lactobacillus,BacteroidesやEnterococcus属などの大腸内にいる腸内細菌が多くを占める.
 多くは腸管拡張による腹部膨満,腹痛を訴える.消化吸収障害によりしばしば水様下痢を呈し,脂肪便となる.時に便秘を訴えることもある.ビタミンやミネラルの欠乏症や体重減少などの栄養障害を合併する.
 本病態を呈しうるものとしては次にあげる背景疾患・病態が考えられる.

2)鑑別疾患

①短腸症候群

②Hirschsprung病(全結腸型又は小腸型)(指定難病291)

③Hirschsprung病類縁疾患

・慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)(指定難病99)

・巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症(megacystis microcolon intestinal hypo-hypoperistalsis syndrome:MMIHS)(指定難病100)

・腸管神経節細胞未熟症(immature ganglionosis)

・腸管神経節細胞僅少症(hypoganglionosis, oligoganglionosis)(指定難病101)