メモ
血清マグネシウムの基準値は1.5~2 mEq/Lである。症状が出始めるのは3.5 mEq/L以上である。体内のマグネシウムは60~70%が骨組織に、30%が筋肉・肝臓など軟部組織に分布し、細胞外液中には約1%しか存在しない。体内のマグネシウムバランスは、主に腎の尿細管で調節されており、通常、腎機能に問題がなければ、高マグネシウム血症は起こりにくいとされている。高マグネシウム血症の初期症状として、頭痛、悪心・嘔吐、起立性低血圧、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠、全身倦怠感、無気力、腱反射の減弱など、10 mEq/L以上では、心電図異常(PR、QT延長など)、呼吸筋麻痺、四肢麻痺、昏睡、心停止などの重篤な転帰をたどることがある。
以下に、小児のマグネシウム製剤に関する高マグネシウム血症についての論文とその要旨をまとめました。
参考文献
(1) Kutsal E, Aydemir C, Eldes N, Demirel F, Polat R, Taspnar O, Kulah E. Severe hypermagnesemia as a result of excessive cathartic ingestion in a child without renal failure. Pediatr Emerg Care 23:570-2, 2007.
14歳の女児。便秘に対し水酸化マグネシウム(Magnesia Calcinee:投与量はabstractに記載なし)を7日間内服後に傾眠、低血圧(70/40 mmHg)で受診した。血清Mg濃度は14.9 mg/dlであった。ECGでQT時間の延長とI度房室ブロックを認めた。腎不全はなかった。対症療法と血液透析で改善した。重症の便秘・イレウスの状態で大量のマグネシウムが経口投与されると、腎機能障害がなくても高マグネシウム血症をきたす可能性が示唆された。
(2) McGuire JK, Kulkarni MS, Baden HP. Fatal hypermagnesemia in a child treated with megavitamin/megamineral therapy. Pediatrics 105:E18, 2000.
28ヶ月の男児。脳性麻痺、てんかん、便秘に対し、医師以外から大量ビタミン・ミネラル療法を指示され、1日800 mgの酸化マグネシウムを投与されていた。便秘の改善がないため母親の判断で酸化マグネシウム1日2400 mgに増量されていた。入院2日前から傾眠傾向となり、心肺停止状態で搬送された。蘇生後の血清Mg濃度は 20.3 mg/dlであった。本エピソードの前の腎機能は正常であった。
(3) Nordt SP, Chen J, Clark RF. Severe hypermagnesemia after enteral administration of Epsom salts. Am J Health Syst Pharm 68:1384-5, 2011.
11歳の男児。頭蓋手根足根骨ジストロフィー。慢性便秘に対し、母が22 gの硫酸マグネシウム(Epsom salts)を胃管から投与した。嘔気・嘔吐、傾眠、深部腱反射消失、心電図異常(QT延長)を認め、人工換気を含めた集中治療を必要とした。血清Mg濃度の最高値は13.8 meq/L (16.6 mg/dL)であった。BUNの軽度上昇(21 mg/dL)を認めたが、腎機能障害はなかった(Cr 0.8 mg/dL)。内科的治療により、後遺症なく改善した。
(4) Tatsuki M, Miyazawa R, Tomomasa T, Ishige T, Nakazawa T, Arakawa H. Serum magnesium concentration in children with functional constipation treated with magnesium oxide. World J Gastroenterol 17:779-83, 2011.
酸化マグネシウム製剤服用中の慢性機能性便秘症児120名の血清Mg値と尿中Mg値を測定した。便秘治療群での血清Mg値は、対照群に比べ軽度上昇し(2.4 mg/dL vs. 2.2 mg/dL)、尿中Mg/Cr比も有意に上昇していた。年齢と血清Mg値は弱い逆相関を認めたが、マグネシウム製剤投与量および投与期間との相関を認めなかった。
資料
1. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 第11章 維持療法III.薬物療法
2. 酸化マグネシウムの「使用上の注意」の改訂について
3. 酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い
4. 高マグネシウム血症症例(マグミット®細粒83%添付文書より引用)
5. 酸化マグネシウム製剤の副作用報告死亡事例への緊急提言
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